カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない
リュディガーが朝や夕にふと窓の外を見ると、中庭で庭師と一緒に花を摘んでいる少女をよく見かけた。
明るいブロンドの髪に青いリボンのついたサンハットをかぶった少女は、はにかんだような笑顔を浮かべノアゼット・ローズを丁寧に摘んでいる。花を大切に愛でるように扱う姿は純朴でいながら可憐で、リュディガーは何度も少女に目を奪われることがあった。
けれど、彼女は二階の窓からリュディガーが見ていることに気づくと気まずそうにモジモジとした後、走って庭の奥へと逃げてしまう。
エルヴィンが「モニカはとっても恥ずかしがり屋なんだよ」と言っていたが、あんな風にあからさまに逃げられると、自分が悪ものにでもなったみたいで気分がよくなかった。
ましてや昼間は一階の応接間から、エルヴィンたちと仲睦まじそうな声が聞こえてくるのだ。自分だけひどく避けられている気がして、リュディガーはますます面白くない。
七歳も年下の、まだ礼儀もわからぬ子供のすることだ。そう頭では理解していたが、次期皇帝としての憂いに囚われている今のリュディガーには、無邪気に自分を避けるモニカがなんとも目障りに思えた。
それなのに朝や夕になるとつい窓から中庭を覗いてしまい、また逃げられてまた苛立つ。その繰り返しに辟易した彼は、いっそ早くクラッセン家がこの城から立ち去ることを願うようになっていた。
そんな次期皇帝の青年と公爵家の少女の隔たりが変わらないまま、一週間が過ぎた日のことだった。