カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない


「うるさい!!」

シュゲル城の二階に、リュディガーの怒鳴り声が響き渡った。

きゃあきゃあと嬌声を上げながら階段を駆け上っていたクラッセン家の次女エラとアルムガルド家の三男ニクラス、そしてふたりを注意しながら追いかけてきたモニカは、威圧的な怒声に身体を硬直させる。

この日は朝から雨降りで、幼いエラとニクラスは元気を持て余し城中を走り回っていた。ふたりの面倒を見ていたモニカは、うるさくしてはいけないとさんざん窘めたのだが効果はなく、どうやら最悪の事態を招いてしまったようだった。

自室から勢いよく飛び出し一喝したリュディガーの姿を、エラもニクラスもモニカもぽかんと見ている。

やがて怒声を聞きつけた侍女が「だから言ったではないですか、リュディガー殿下のお部屋の近くに行ってはならないと!」と顔を青ざめさせて駆けつけたのを見て、リュディガーは不機嫌な表情のまま大きな音をたててドアを閉めた。

幼いエラとニクラスがだんだんと泣きだしそうな顔になっていく。モニカはふたりを落ち着かせるため抱き寄せようとして気づいた。自分の手が震えていることに。

「お姉様、あのひと怖い……」

目に涙を浮かべ抱きついてきたエラの頭を撫でながら、モニカの胸も恐怖と緊張に早鐘を止められずにいた。

(リュディガー皇太子殿下って、なんだか近づきにくい……。ニクラスもエルヴィンも明るくて優しいのに、どうしてあの方はあんなに厳しくて怖いのかしら……)

中庭で花を摘んでいるときも、強い視線を感じて建物を見上げると必ずリュディガーが厳めしい表情で立っていた。気軽に手を振ることもできず、モニカはいつも気まずいものを感じていた。

(やっぱり次期皇帝になられる方は厳格でなければいけないのね。とても尊敬するけれど……仲よくなるのは難しそう……)

ずっしりと胸が重くなるのを感じながら、モニカはすっかり元気をなくしてしまったエラとニクラスと手を繋いで、一階の居間へと戻っていった。
 

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