オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
日本情緒を売りにした観光地でよく見かけるものだ。
着物といっても浴衣みたいなものだろう。
確かに、普段なかなかすることのない和装に身を固めれば、老舗料理屋の敷居もすんなりまたぐことが―――。


「いやいやできないわよ! 着物着たくらいで品性上がるなら苦労しないわ! それに、アラサーがいい歳こいて恥ずかしいじゃない。こういうのは学生とか若いコたちがするものでしょ…?」


カップルで…と心の中で続ける私。
恋人ごっこでどうしてこんな若気の至りみたいなことしなきゃならないのよ、とまったく乗り気にならない私だったけれど、向居はなんのそのだ。


「別にいいだろ、せっかくなんだし。というか、都の着物姿、見てみたい」


なんて…微笑みながら見つめてこないでよ、ドキリとしてしまう。


「…む、向居も着るんでしょ?」

「もちろん。恋人と一緒じゃないと雰囲気でないだろ」


じゃあ決まりだ、と言うなり、私の手を握ってレンタル屋さんへ歩いていく向居だった。


レンタルは予想通り浴衣だったけれど、あなどるなかれ、生地はこの地域の伝統工芸である精巧な技術で織られた素晴らしいものだった。聞けば、元は売り物だったという。

だから、正直レンタル料と言っても、お値段はけっこう張っていた。
一番安いので…と選ぼうとした私だったけれど、「俺が払うからこれを着ろ」と向居が選んだのは、目が醒めるような朱色に白金糸の刺繍が鮮やかに入ったものだった。
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