オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
絵付けは、すでに出来上がっている椀やお皿に好みの絵をつけていくもので、平蒔絵と呼ばれる技法だ。
使うのはもちろん本物の漆器なんだけれど、これに自分で絵柄をつけるということなので、店頭価格の十分の一で購入することができる。
私のように苦手な人のために、絵柄はすでに用意されているものがあって、そこに豪勢に金粉を蒔けばそこそこ様になるものが出来上がるようになっていた。
所要時間は小一時間が平均。仕上げに時間が必要なため、完成品は自宅に郵送してくれるとのことだった。

用意された絵柄を用いるだけで売り物のような出来になるのならありがたい、と私と向居が選んだ絵柄は桜の絵だった。


「漆と言っても難しく考えず、絵の具を塗っていくような気持ちでやるといいですよ」


と店員さんのアドバイスに従って恐る恐る筆を椀に乗せる。
この漆はいわば糊のようなもので、こうして塗った後に金粉を蒔くことで絵柄を付けていく。


「一発勝負だから緊張しますねぇ」

「大丈夫ですよ。まずは毛先だけでそおっと」

「あ」


慎重に筆を運ぶ私の横で、向居が変な声をあげた。
向居の椀を見やると、最初の一筆の線が点になっている。


「ぷ、だから毛先だけって言われたじゃない」

「むずかしいな」


にわかに私は高揚した。
向居が「むずかしい」なんて発言するなんて…!
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