オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
ざわめきが、頭の中ではなく本堂内で聞こえていると気付いたのは、その人物たちの気配を感じ始めた頃だった。

団体の観光客だろうか。
大勢の人が本堂に入って来て、こちらに向かって来ている。

ちっ、と耳元で舌打ちが聞こえたような気がしたけれど、こちらに近付いて次第に大きくなってくるざわめきのせいで定かではなかった。
向居がゆっくりと私を離し、何事もなかったかのような口調で話しかけてきた。


「つらいだろ、足」

「え…? きゃっ…!」


有無を言わさず、向居が私を横抱きにして抱え上げた。
ええ…! これって、お姫様抱っこ!?


「ちょ…ま、降ろして、向居っ…!」

「怖いなら、つかまってろ」

「そういう意味じゃ…」

「大丈夫だ。絶対、離さないから」


ずんずんと歩いて、観光客たちの横を通り過ぎていく。
怖いより色んな理由で恥ずかしくて、私は向居の胸元にしがみついて縮こまるしかない。

けれども、香る糊の香りと向居のぬくもりが、恥じらいから私をさきほどの抱擁の余韻に引き戻す。

それは、とろけるように甘い痛みをともなっていて、私はその苦しみに耐えるように、向居の熱い首筋に顔をうずめるしかなかった。




< 150 / 273 >

この作品をシェア

pagetop