オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~



どう歩いてきたかもわからない。気付けば、部屋に戻っていた。
室内は青白く暗い。
まるで今の自分の心の中のようだ…なんて自嘲なのかよくわからない薄ら笑いを浮かべて、亡霊のように部屋の中に進む。

安らかな寝息を立てている向居を起こすわけもいかず、電気をつけず部屋に入る。
けれども、灯りなんて必要なかった。今日は、はっとするくらい奇麗な月夜。天然の白光が部屋を冴え冴えと照らしていた。

私は窓際のチェアに座って、月夜を仰いだ。月見酒もおつかな。
たまには独りで飲むのもいい。

悲しくて、空しくて。
独りの殻に閉じこもってお酒におぼれたい気分。
まるで昭和歌謡曲の中の、悲しい女のよう。

仕事漬けと言って過言ではなかった、これまでの数年間。
企画、結果、企画…エンドレスのプレッシャーの中、大学生の時以上に仲良しになったのがお酒だった。

不思議と涙は出てこなかった。
白く奇麗な月明かりは、心をまっさらにしてくれるようなすっきりとした輝きを穏やかに降りそそいでくれる。
まるで湧水に洗い流されたように、驚くくらい私の心は澄んでいた。
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