オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
「お水、買ってくる。喉乾いたでしょ?」


理由をつけて、いったん部屋から出ようとしたけれど、向居は「乾いていない」と言い切り、逃げようとする私を許さなかった。


「でも、水分入れた方が酔いが醒め―――」


それでも立ち上がろうと壁に伸ばした私の手を向居がつかんだーーーかと思うと、次の瞬間、私はその腕の中に囚われていた。


「や…っ…離して向居…っ」

「嫌だ」


なおも拒否の言葉を続けようと息を吸うけれども―――黙らせるように、ぎゅうとさらに強く抱き締められる。
きつくきつく、息もできないほど。
押し付けられた向居の肌から、その鼓動が響いてくる。ドクドクドク…と早鐘のように聞こえるのは、けして酔いのせいではない。


「…いつもいつも思っていた…気高く孤高な軍師様の泣きっ面を見てやりたい、俺のことを、嫌と言うほど意識させたいって…。でもお前は、いつだって揺るがなかった。強い女だった。…でも、いざそんな顔を見せられたら、俺は…」


あえぐように呼吸を置き、さらに包み込むように、きつく私を抱き締める。


「今ぐらいは、俺に弱さ見せてくれよ…」

「…向居…」

「独りでなんて泣かせない。泣くなら、俺の腕の中だけにしろ」


大切なものを包むように、その腕は強くやさしかった。
冷たく青白い光を差し込んでいた満月が柔らかくぼやける。
温かい光が広がるように、視界がにじむ。
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