オプションは偽装交際！～大キライ同期とラブ・トラベル！？～

「やめてよ…子どもじゃないんだから…。人前で…向居の前でなんて…私…絶対…」


泣いたりしない…。

そう呟くはずだった言葉が声になることはなかった。堪えきれず瞳から溢れ出た涙に飲ま込まれてしまって。

すすり泣く私の頭を、向居がゆっくりと撫でる。繰り返し、繰り返し、今にも千切れそうに張っていた私の心をほぐしていくように、何度も、丹念に、やさしく。

ひどく、心地よかった。
頭を撫でられるなんて、何年振りだろう。
身体が、心が、どうしようもない安堵感にほろほろに溶けていくのを感じ、気付いてしまう。
私、ずっとこうされたかったんだわ。

向居はもうなにも言わなかった。
頑なに、なにも言わなかった。
ただ黙って、いつまでも、永遠で包むように私をやさしく抱き締め続け、守り慈しむように背中をさする。
頭を撫でる寡黙な手が雄弁に伝えてくれる。

大丈夫。俺がそばにいる。
ずっとずっと、お前のそばにいる。

愛している。

向居の大きな身体は、途方もなく温かくてやさしいまるで揺り籠のようだった。

すっかり凪いだ私の心に遠のいていく意識を引き留める術はなかった。ゆっくりゆっくりと撫でられるごとに、私は安堵に満ちたまどろみへと沈んでいく。

唇に柔らかな感触を感じた。
かすめるようにほんの一瞬だったそのぬくもりは、あまりにもささやかで…。
眠りの世界に足を踏み入れていた私には、夢とも思えた。