オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
「だ、大丈夫? もしかしてひどい二日酔い?」

「決まってるだろ。どこぞのザル女に付き合ったんだからな」


とぼやく向居の声は、すっかり掠れて低かった。
その声で昨晩の向居の声が甦る。
「俺の胸で泣け」と囁いた、あの色気のある声を。
ぽーと身体が熱くなってくる。

そうこうしていると料理が来た。
私はさっぱり和風パスタ。
対して向居はしっかり和食善。大口でご飯を食べて味噌汁をすすって、すいすい食べていく。よい食べっぷりだ。二日酔いのくせに、食欲はあるようね。


「目、真っ赤だな」


不意に向居が言った。
私に視線もやらずに言うから、一瞬なんのことを言ったのか分からなかった。


「すこしは気が晴れたか?」

「…ええ、おかげさまで」


私はパスタをいじくりながら、平常を装って返す。けど内心はパニックだ。

なぜ泣いていたのか、訊かれたらなんて答えよう…。
あんな大泣きするようなこと、そんじょそこらの嘘じゃ納得させられない…。
なに食わぬ様子でパスタを口に運ぶけど、味わう余裕もなく、ひたすらに嘘を詮索する。

けれども、向居はそれきりなにも訊いてこなかった。
二日酔いなんて嘘みたいな食べっぷりを見せ、さっさと完食してしまうと、タイミングよく運ばれてきたコーヒーをすする。

私は訝しく思うもののほっとした。
気を使って、深く詮索するのは控えてくれたのかもしれない。

いい男だ、向居は本当に。
きゅんと胸が痛む。


『独りでなんて泣かせない。泣くなら、俺の腕の中だけにしろ』
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