オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
「そうだね」


ぽつりと返す私。
空はまだ明るいけれど、陽は傾き、少し涼しくなってきた風が、一日の終わりを感じさせる。

おもむろに、向居がスマホを取り出してなにか調べ始めたかと思うと、私を見つめて微笑んだ。


「最後に打ち上げでもどうだ?」

「打ち上げ?」

「記念の一杯とか」

「昨晩酔いつぶれた人がよく言うわ」


苦笑する私に、向居ははにかんだ笑みを浮かべた。


「昨晩みたいに見境なく飲んだりはしないさ。それに、今回のロケハンの締めとして、ここは絶対に行ってみる価値はあると思うけど?」


と、向居がスマホで見せてくれたのは、朱く染まった夕方の海辺を背に佇む小さなお店だった。


「ここは…」


街からタクシーで三十分ほどかけていく場所で、岬に建っているカフェバーだった。

海が一望できて、夜景とはいかなくても夕暮れ時の海の景観を店内からお酒を飲みながら楽しめる。まさに格好のデートスポット。
オープンして間もなく、地元の人しか知らないのを偶然に近い状況で見つけ出した。
さすがに独りでは行けないと思って、泣く泣くロケハン候補から外していたのに…。


「さすが向居。よくここに気付いたわね。…でも、当日行っても入れないでしょ?」


地元の人には知られたカフェバーだ。それに小さな店内だし、当日来店はまず無理だろう。


「取っておいた、予約」


唖然となる。一体いつ予約いれたのよ…。ほんとこの男は、油断できない。


「もちろん俺のおごりだ。行ってみないか。最後の夜を、完璧に終わらせたいんだ」


『最後の夜』という言葉に寂しさを覚える。
それと同時に、胸もざわつく。『最後の夜』を、向居はどう終わらせる気なのだろう…。

そんなことを考えて口ごもっているうちに、向居が強引に私の手を握り寄せた。


「絶好の時間帯はすぐなんだ。迷っている暇はない。行こう」


そうしてその場でタクシーを捕まえ、握った私の手を引き寄せ向居はタクシーに乗り込んだ。
有無を言わせない向居の行動に戸惑う私を連れて、タクシーは岬への長い道を走った。




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