オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
カクテルグラスから影が長く伸びている。
店内はいつしか朱色に染まっていた。
窓を見やると、真っ赤な空を残して夕陽が海に沈んでいく光景が映る。

奇麗。

目が醒めるように華やかなのに、どこか物寂しさを思わせる朱。
このまま、あの深い朱に吸い込まれて、心がどこかへ遠くへ連れ去られてしまいそうな、そんな寂しさを覚える。

向居も、同じことを思っているのだろうか。
私と同じように夕焼けに見入っている向居との間に生まれた沈黙が、まるで永劫の時のように私の心に重くのしかかる。


「外、出てみないか?」


だから向居のこの提案は救いだった。
「いいわね」と笑って、先に席を立った向居の後に続いた。

テラスに出た瞬間、夕陽の眩しさに思わず目を細める。

夕陽なんて、東京でだって何万回と見てきたのに、ここで見るそれは全然違った。
建物や汚れた空気がない空で見るとこれほどに強烈なのかと、今更ながら、世界を朱に染め上げる太陽の強大さを実感する。

テラスには私たちの他にも二、三組のカップルがいた。
でも正直、少ないと思った。これほどの眺望なら、もっとカップルが所狭しといそうなのに―――と、訝しんでいたら、


「う…さむーい!」


強い潮風に吹きつけられて身体を抱いた。
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