オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
春の夜の古都は、妖しく美しい。
花街通りを歩けば、淡い灯りと古い茶店がそれだけで絵になるようなレトロな風情を漂わせ、月光を浴びた薄紅桜が、紫がかった妖光を放って夜空に広がる。
夜風は昼間の温かさをふくんでやさしいのに、どこかぞくりとさせる、古都の夜。
こんな夜は誰と歩くべきだろう。
友達? 家族?
ううん。
やっぱり、恋人とかな…。
こんな魅惑に満ちた街は、やっぱり恋人と歩くのがロマンチックだ。
けれど、今の私は独り。しかも彼氏とケンカして同棲している部屋を飛び出したままの旅行入りだった。
落ち着かない胸のざわめきも、ロマンチックというよりセンチメンタルな気分がそうさせると言うほうがふさわしい。
…なんなのよ、あのバカ男。
私のことを、なんだと思ってたのよ…。
旅行一日目だというのに、もう帰宅した時のことを考えて気が重い。家に着いて早々、あいつと話す内容は決まっている。
別れ話だ。
はぁ、と大きく息を吐いた。
「やめやめ。せっかくのきままな一人旅なんだからさ!」