オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
向居の言葉が溶かしていく。
共に頑張ってきた向居の言葉だけが、私のがちがちに強張っていた心を、やさしく綻ばせていく。
そう。
向居の言葉はいつだって、誰のどの言葉よりも、私に大きな自信と安堵をあたえてくれた。

私の目に微かに宿った光を逃さぬように、向居が私の顔を両手で包んだ。


「お前はずっと一人で走り続けてきた。でももし…これからは一緒に走るやつがいる方が張り合いが出ると思うのなら、俺を隣にいさせてくれないか?」


ドクンと胸が大きく跳ね、爆ぜたように身体中の血が息づいた。


「お前の隣にいるのなら、俺もこの先走り続けられるから。俺はそうやって、いつまでもお前と共に在りたいんだ」


想いが込み上げてきて、向居の胸に瞼を押しあてた瞬間、頬に熱い雫が落ちた。
けれどもこれは、さっきとは全然違う涙。
私を支えてくれる人がそばにいる。一緒に走ってくれる人がそばにいる。
仲間じゃないライバルじゃない、それよりももっと近くて深く繋がる人と、共に歩んでいける…。その喜びがにじんだ、温かい涙だ。


「…好きよ」


私は抱き締める。ありったけの力で、向居の大きな身体を、私への深く大きな愛を宿した身体を、めい一杯抱きしめる。


「好きよ向居、大好きよ…」


そばにいて。
ずっとずっと、そばにいて。
貴方と一緒に、どこまでもいつまでも、歩いて行きたい…。
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