オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
東京駅で一旦別れた時すら、寂しくて打ちひしがれそうだった。幾度となく抱き締められたというのに、何度も肌を重ね合わせたというのに、別れた瞬間からもう身体が渇いてきて、柊介のぬくもりが欲しいと訴えかけてきた。
昨晩の情交に疲れ切った身体に鞭打って出社したのは、私にも柊介と同じ理由があったからだ。
会社に行けば柊介に会えると思った。だって、柊介もきっと同じように思って出社してくると思ったから。


「…こんなところで、そんな殺し文句言うなんて、反則だな…」


と低い声でひとりごちる柊介。こんなに人が溢れている場所だというのに、その声はまるでベッドに私を押し倒しているかのごとく、欲に掠れている。
私は瞳を合わすことができず、開かないエレベーターの扉を見つめている。

すると、リンとエレベーターが鳴った。
降りてきた別部署の女性社員が柊介に気付き、まるで王子様にでも遭遇したような反応をして、甲高い声で挨拶をして行く。

無人となった庫内に私達は乗り込んだ。
扉が閉まりきらないうちに、柊介の手が伸びてくる。私を抱き寄せようと―――。

けど、閉まろうとする扉から、若い男性社員が乗り込んできた。
しぶしぶ手を引いた柊介は、詫びも言ってこないその社員の後頭部を今にも舌打ちしそうな顔で冷ややかに見つめている。

私は、まだドキドキし続けている胸を持て余しながら、男性社員より頭一つ分背の高い柊介を見やる。

キスしたい。
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