オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
「空いてるだろ? 実は都が以前から行きたいって言っていたあの―――」

「ごめん、今週末は予定があるんだ」

「予定?」

「部屋探ししようと思って」

「…」

「もっと手狭で一人暮らししやすいところにしようかと思って」


押し黙ったまま返答しない俺に不穏な空気を感じたのか、都は「ごめんね、今夜言うつもりだったの」と、気遣わしげに俺の傍らにやってきた。

違う都。俺が気分を悪くしたのは、そういう理由からじゃない。
都がまだ俺と一緒に暮らすことに乗り気じゃないのは解かっている。
でも、俺は…。

俺はため息まじりに口を開く。


「別に予定なんてまた会う時でいいよ。俺はそういうこと言ってるんじゃない」

「怒った…?」

「別に怒ってないよ。ただ、がっかりしただけだ」

「がっかり、って…」

「俺とお前は、やっぱりまだ違うんだなって思って。…なんだよ、部屋探しって」


違うなんて当たり前だ。五年間くすぶらせた想いを勝手に爆発させて、俺はなに自分勝手なことを言っているんだろう。


「柊介…」

「行けよ。約束してるんだろ」

「十五分もかからないの。すぐ、戻ってくるから。…柊介」


しばらくの沈黙の後、都は部屋を出て行った。

ああくそ…。
俺は頭を抱えベッドに倒れ、都のぬくもりが残る枕を抱き寄せる。
付き合い始めて最初に買った物がこの枕だった。
俺用の枕しかないから、と近くのショッピングモールで適当に買った都用の枕。
ローズの香りが残るそれに顔をうずめ、俺は長い溜息をつく。

女々しい。
俺はどうかしてしまっている。

辛い片思いが実って、これで恋煩いの苦しみから解放されると思ったのに、今の方がもっと辛い。
手に入れた分だけどんどん貪欲になって、都を片時も離したくないと身勝手なことを思ってしまう自分がいる。
一日中毎日だって、都のことだけを想っていたい。
俺は都に溺れきっているんだ。

不意に、リンとスマホが鳴る音がした。
自分のものに目をやるが画面は暗いままだ。

音がした方を見やると、画面が光っているスマホが目に入った。
都、忘れていったんだな…。

手にして、つい通知画面を一瞥してしまうと、短くシンプルなメッセージについ目が行ってしまった。

『あと五分で部屋に着く』

そのメッセージの送信元は、恒田基樹とあった…。




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