オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~

【side 都】


自宅に帰る私の足取りは重かった。
出る間際の柊介の様子が気がかりで不安でいっぱいになっていた。

明らかに、怒っていたわよね…。
あんな態度をする柊介を見たのは初めてだった。
気がかりで、今すぐ引き返したい思いにかられる。これから会う人のことを考えると罪悪感さえ沸き起こってくる。

自宅に帰ると、すでにドアの鍵が開いていた。
もちろん、私の他にこの部屋の鍵を持つ人物が先に上がっているからだ。


「久しぶりだな、都」


基樹は私が入ってくると、自分の部屋だというのに、緊張したように立ち上がってぎこちない笑顔を向けた。


「久しぶりね、基樹」と、私も微笑む。


「転職先、決まってよかったね」


「ああ」とうなづいて基樹も微笑んだ。

あの旅行から一か月後、基樹は会社を辞めた。
基樹はあの旅行から帰って以来、飯田の部屋に寝泊まりしていた。必要な荷物も私が不在中に取りに帰ったりしているようで、まったく顔を合わすことがなかった。

避けられているんだと思った。
基樹の気持ちを考えると、当然の行動だと思った。

私は一度でいいから基樹とちゃんと話し合って、ちゃんとお別れをしたかった。あんな状況であんな別れ方するには、私と基樹の五年間はあまりに長く濃すぎたから。
それに、基樹の名義になっている部屋の契約や家具家電の処理と言った現実的なことも話し合う必要があった。
そこに来て基樹が突然会社を辞めてしまい、ますます基樹と連絡を取ることが難しくなった。
私から連絡しようと思いつつつい先延ばしにしていた矢先、つい数週間前、基樹から連絡がきた。

『都が都合のいい時に会えない?』

私はそのメッセージに間髪入れず承諾の連絡をした。
もちろん、柊介には内緒だった。

最初に会ったのは、付き合っていた時に二人でよく行っていたカフェだった。
夜遅くまでやっている、どこにでもあるチェーン店。
二人で仕事のことで遅くまで語り合った、思い出の場所。

久しぶりに会った基樹は、すこし痩せたみたいで、付き合い始めた時の面影を思い出させた。

私に会うなり基樹が発した言葉。
それは、私が真っ先に基樹に言いたかった言葉でもあった。


「ごめんね、基樹」
「ごめんな、都」
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