オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
「悪かったな、俺の仕事の都合で、こんな遅い時間に来てもらうことになって。家財もほとんど譲ってもらって…ほんとありがとな」

「いいのよ。転職したてでいろいろ物入りでしょ?」

「ああ、正直給料も前より下がったから、ありがたいよ」


基樹の新しい就職先は同じ旅行業界だった。
私たちの会社よりは小さいけれど、そういう所だからこそ一からまた頑張れるから、と。
私はその基樹の決意に尊敬の意を感じた。だから応援もかねて、家電も家財もほとんど譲った。


「俺が本格的にここに住むのは、都の引っ越しが終わってからでいいからな。…ところで、向居にはこのこと言ったのか」

「うん、了承は得たよ。仮住まいならいいって」


もちろんこれは、基樹を煩わせないための嘘だ。
基樹の話をすると柊介がどんな顔するか気がかりだったので、なにひとつ話せずにいた。
柊介が私の仮住まいを拒む理由はないはずだけれど…さっきの柊介の反応を思い出すと不安になってくる。

私が週末に部屋探しをすると言った時、柊介が見せた落胆と苛立ち。

私はちゃんと解かっている。
柊介が私と暮らしたがっているということ。もっと私と過ごす時間を増やしたいんだってことを。

日中は同僚ごっこ。恋人同士に戻るのは夜だけ。
そんなの、どこにでもいる社内カップルなんだろうけど、柊介には耐えられないのだろう。五年も密かに一心に私を想ってくれていたのだから。


「仮住まいって…向居とはそのまま一緒に暮らさないのか?」


サインと印を押した書類を受け取りながら、基樹は怪訝そうに訊いてきた。


「え、うーん…まぁね…。私たちまだ職場には付き合っていること知られていないから。総務に住所変更届出したら最後、一気にバレてしまうのは目に見えているでしょ」

「いいじゃないか。お似合いだよお前たち。都が向居の相手なら、誰も文句言わないよ」

「そうかしらねぇ」

「そうだよ。愉快だな、周りの大騒ぎぶりが目に浮かぶな」


と、楽しげに笑う基樹だけれど、当の私はそんな光景を想像してどんよりと気が重くなる。

周りなんて、好き勝手でいい加減なものよ。
馴れ初めを根掘り葉掘り訊いて騒いで、それを訊きつくしたら次に訊いてくることは決まっている。


「結婚はいつするんだ」
< 252 / 273 >

この作品をシェア

pagetop