オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
まずは基樹に訊かれて、ぎくりとする。
「結婚…結婚ね…」
柊介と付き合って三か月。
最近、痛切に感じる。
柊介が好き。好きでたまらない。
今日だって、別の会社の女性が柊介に惹かれていたなんて話を聞いただけで胸中穏やかじゃなかったし、本音を言えば、ああやって後輩たちが柊介のことを夢中で詮索しているのも嫌だ。
私は…柊介のすべてを、私だけのものにしたい…。
こんな激しい想いを抱いている自分に、どきりとする。
柊介のことを想うと、胸が苦しくなって息をするのも苦しくなる。まるで、溺れているように。
一日中毎日だって、柊介のことを考えずにはいられない。
そして、そんな自分がとても怖い…。
「私って、この期に及んでも意気地なしよね…」
ぽつりとひとりごちるように言った私の言葉には返事せず、基樹はしばらく黙ると静かに口を開いた。
「俺はお前と結婚を考えていたよ。企画営業に昇進したら、プロポーズするつもりだった」
「え…」
「けど、できなかった」
私は言葉に詰まる。
基樹は懐かしむような微笑を浮かべて続ける。
「これをしたらこうしよう、とかって自分の都合のいいように制限していたら、そのうちに機会を逃してしまって、相手とも擦れちがってしまうものなんだ。ま、俺たちの場合は、最初からこうなる運命だったんだろうと思うけど」
と、からりと笑って、基樹はまっすぐ私を見つめた。
「だから、都は幸せになれよ」
その目はどこか寂し気だったけれど、真剣でとてもやさしかった。
けれども私は、叱られたような気になる。
「じゃ、あまり待たせると向居が気を揉むだろ。俺、もう帰るよ」
「あ、うん…」
気の利いた返事を返せずにいる私に基樹は背を向ける。
「たぶん、引っ越しがすんだらもう連絡することもなくなると思う。元気でな、都。仕事がんばれよ」
「ありがとう。基樹も、がんばってね…」
「あったりまえだ!」
「じゃあな」と、まるで明日また帰ってくるような軽い言葉を残して、基樹は部屋を出て行った。
私はしばらく佇み、ゆっくりと部屋の中を振り返った。
基樹と過ごした五年間が詰まった部屋を。
夜遅くまで勉強して深夜に一緒にカップラーメンを食べたこと。先輩に怒られて帰ってきて大泣きしたのを基樹に励ましてもらったこと。思うように成果が出なくて電気もつけず落ち込んでいたら、返ってきた基樹に驚かれたこと。企画営業に昇進した時に基樹がケーキ勝手来てくれてお祝いしてくれたこと―――。
私、なにしてるんだろう。
猛烈な自己嫌悪が湧いた、その時だった。
インターホンが鳴った。
基樹かな。忘れ物でもしたのだろうか。
そう思ってドアを開けた瞬間、私は目の前にした相手を見上げて立ち尽くした。
柊介が、怒りをにじませた顔で立っていた。
「結婚…結婚ね…」
柊介と付き合って三か月。
最近、痛切に感じる。
柊介が好き。好きでたまらない。
今日だって、別の会社の女性が柊介に惹かれていたなんて話を聞いただけで胸中穏やかじゃなかったし、本音を言えば、ああやって後輩たちが柊介のことを夢中で詮索しているのも嫌だ。
私は…柊介のすべてを、私だけのものにしたい…。
こんな激しい想いを抱いている自分に、どきりとする。
柊介のことを想うと、胸が苦しくなって息をするのも苦しくなる。まるで、溺れているように。
一日中毎日だって、柊介のことを考えずにはいられない。
そして、そんな自分がとても怖い…。
「私って、この期に及んでも意気地なしよね…」
ぽつりとひとりごちるように言った私の言葉には返事せず、基樹はしばらく黙ると静かに口を開いた。
「俺はお前と結婚を考えていたよ。企画営業に昇進したら、プロポーズするつもりだった」
「え…」
「けど、できなかった」
私は言葉に詰まる。
基樹は懐かしむような微笑を浮かべて続ける。
「これをしたらこうしよう、とかって自分の都合のいいように制限していたら、そのうちに機会を逃してしまって、相手とも擦れちがってしまうものなんだ。ま、俺たちの場合は、最初からこうなる運命だったんだろうと思うけど」
と、からりと笑って、基樹はまっすぐ私を見つめた。
「だから、都は幸せになれよ」
その目はどこか寂し気だったけれど、真剣でとてもやさしかった。
けれども私は、叱られたような気になる。
「じゃ、あまり待たせると向居が気を揉むだろ。俺、もう帰るよ」
「あ、うん…」
気の利いた返事を返せずにいる私に基樹は背を向ける。
「たぶん、引っ越しがすんだらもう連絡することもなくなると思う。元気でな、都。仕事がんばれよ」
「ありがとう。基樹も、がんばってね…」
「あったりまえだ!」
「じゃあな」と、まるで明日また帰ってくるような軽い言葉を残して、基樹は部屋を出て行った。
私はしばらく佇み、ゆっくりと部屋の中を振り返った。
基樹と過ごした五年間が詰まった部屋を。
夜遅くまで勉強して深夜に一緒にカップラーメンを食べたこと。先輩に怒られて帰ってきて大泣きしたのを基樹に励ましてもらったこと。思うように成果が出なくて電気もつけず落ち込んでいたら、返ってきた基樹に驚かれたこと。企画営業に昇進した時に基樹がケーキ勝手来てくれてお祝いしてくれたこと―――。
私、なにしてるんだろう。
猛烈な自己嫌悪が湧いた、その時だった。
インターホンが鳴った。
基樹かな。忘れ物でもしたのだろうか。
そう思ってドアを開けた瞬間、私は目の前にした相手を見上げて立ち尽くした。
柊介が、怒りをにじませた顔で立っていた。