オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
「いい機会だし、俺たちもっとお互いのことを知り合わないか? 恋人ごっこのお遊びでいい。逢坂にもっと俺を知ってもらいたい」


その真剣なまなざしに私は息を詰める。
いつもの見透かすような黒い瞳―――そこにさらに宿った熱く鋭いなにかに締めつけられるかのように、私の胸は高鳴った。

誤解って…。
知ってもらいたい、って…。
今さら知ったところで、向居がムカつく奴ってことは変わらないわよ…。


「決まりだな。じゃあ今から俺たちは恋人同士」


返答に詰まって流れる沈黙に肯定の意を解釈したのか、さっそく向居は彼氏気取りをしだした。


「まずは名前呼びからだな。よろしく都」

「…勝手に名前で呼ばないでよ」

「俺のことは柊介って呼んで。ああ、お好みなら柊ちゃんでもいいけど?」

「ばか!?」

「ははは」


戸惑う私に対して、向居のこの軽さ。
悔しいのか情けないのか、顔が熱くなる。

ああもう、なんかどうでもいいわ。どうとでもなれ、よ。
恋愛経験皆無のお子様でもないし、恋人ごっこくらい適当にやるわよ。

これは仕事。仕事よ!
利害だけを考えて淡々とやり過ごせばいいんだから。

私は笑みを作った。


「よろしく、柊介。楽しい三日間になるといいわね」

「よろしく都。想い出に残る三日間にしような」


想い出ね。
最悪の思い出になるのは想像に難くないわ…。

なんて卑屈になりつつ愛想笑いを返そうとした―――けれども、笑みは次の瞬間強張ってしまった。

夜桜を背に微笑む向居の姿が身震いするほどに魅惑的で、そして、この旅の波乱を予感させたから。


茫然となっている私の手をそっと持ち上げると、向居は五万と一緒に自分の手のひらを重ねた。

映画でこういう場面、あるわよね。
お金で始まる恋人ごっこ。


…映画みたいな恋なんて、あるわけないけれど…。





< 32 / 273 >

この作品をシェア

pagetop