オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
3
むかつく。
なんなのよ。どうしてあんなに怒るわけ?
ふつう、あの状況は私が怒る方でしょ??
苛立ち紛れに繰り出たのは、旅館の中庭だ。
満月が近いのだろう。
中庭は月明りと館内の間接照明だけでも見渡せるほどに明るかった。
案内してくれた仲居さんに感激したことを言ったら、この庭は山間の草花をそのまま生かした造りをしていると教えてもらった。
自生の草花が生い茂っていても鬱蒼としているように感じないのは、宿泊客に歩きやすいようにと造られた細道や石畳のおかげと言えた。
春の花が月明りに照らされて、淡く妖しく輝いている。
きれい。
ほう、と見惚れていると、苛立ちもすーっと消えていくような気がする。
本当にいい宿だ。選んで大正解だった。
選んだまでは、だ。
チクン、と忘れていた胸の痛みがよみがえる。
基樹、この旅館を見たらよろこんだだろうな。あいつ意外に日本の歴史や文化に詳しくて、こういう宿も好みだもんな。
ここを選んだのも、基樹が喜ぶと思ったからでもあるのに。