オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
そうよぎった途端、とろりとした向居の瞳に、はっとしたように光が走った。
次の瞬間、私の肩に向居の額がごつんと乗った。
はぁ、とかすかに安堵するような吐息が聞こえ、今度ははっきりとした、いつも通りの向居の低い声が肩に響いた。


「…ま、同僚として、だけどな」

「…っ…!」


呪縛から解き放たれたように緊張が一気に解け、代わりに怒りが噴き上げる。
この男…また思わせぶりなことをして私をからかったのね…!

非難の言葉をあげようとしたら、何事もなかったかのように向居が私の肩から顔をあげ、いつものすました微笑を浮かべた。


「化粧してくるのか? これから寝るのに面倒なことするな。すっぴん、けっこうかわいいのに」


早くどかないと蹴っ飛ばすわよ…!
と悪態が喉元まで出たが、口にすることはできなかった。

向居が私の頬にやさしくキスを落としたから。


「…頬、冷たいな。湯冷めするなよ」


そう囁いたやさしい微笑が離れるなり、私はショルダーバックをひっつかんで駆け出した。
真っ赤になった顔を見られないように、逃げるように。


そしてそれから、自販機で高いビールを何本も買って、部屋には戻らず独りで浴びるように飲んだ。





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