それでもいいって、いったじゃん。
「いらっしゃい。一応片付いてるはず。ゆっくりしていきなよ。」

見た目通り、ただただ広い部屋。

「なんだよ、入んないの?」

「いや、はいる…おじゃまします…?」


「なんだよ、するならもっとちゃんとおじゃましなよ。飲み物、麦茶でいい?」


さっきまでとは違う、柔らかい雰囲気。
光の下で見る、あなたの表情。


それでもやっぱり、目が寂しそうなのは変わらない。


「はい、麦茶。喉乾いたでしょ。」


氷が3つ入ったグラス。
カラカラと響く音。
ベランダから吹き抜けてくる夏の夜風はスッキリとした冷たさで、何かを思い出しそうだった。


ああ、さっきこの人とキスをしたんだ。
色白の肌、長い睫毛、サラサラの髪。



彼はきっと、
いつも何かに怯えている。


「麦茶、美味しいと思ったの初めてだ。人がいてくれるって、ありがたいね。」


弱々しいくせに、1人を嫌がる。
1人を嫌がるくせに、人といるのを恐れる。



なんとも人間らしくて、
それでいて不器用な彼を、


私は抱きしめたくて仕方がなかった。
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