それでもいいって、いったじゃん。
「え、いや、ちょっとまって、え…?」

こんなことがしたいわけじゃ、
こんな、べつに、そんな、

慌てたところで、彼はキスをやめない。
荒くなる呼吸、薄れていく意識。

「うるせえな、ちょっと静かにね。それと…」

立っているのがもうやっとだというのに、続きを言うより先に、彼は私の顎に手を添えて、持ち上げる。

あ、これが巷で噂の…とか、
あ、また寂しい目をしてる、とか。

そんなことが脳裏を埋め尽くしたわずか2秒たっただろうか。


彼が私にキスをした。
溺れていくようだ。


心も。体も。
< 26 / 88 >

この作品をシェア

pagetop