それでもいいって、いったじゃん。
「でも、私ね、」


「うん」


「優しくないよ、全部、自分の為だもの」


「馬鹿だね。それが優しいっていうんだよ」


おまえは、根っから優しいんだ。
そう言って、彼は頭を撫でるのをやめた。
代わりに私をぎゅうっと優しく強く抱きしめた。


涙は唐突にやってきて、
私の頬をただ濡らしていく。

彼を抱き返して、声を出さずにわんわん泣いた。


その日もまた、月が綺麗に咲いた夜だった。
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