ハロー、カムアロングウィズミー!
対極か同類か
普段通りの俺ならば、おそらく多忙を理由にやんわりと先方に断りを入れただろう。
それでも、よりによって国会開会目前の大切な時期に、わざわざこんな山奥にまでやってきたのには理由がある。

その理由を口に出せば、支援者たちは俺に失望するに違いない。
もしかすると、晴れて俺の妻となったばかりの真依子にも軽蔑されるかも知れない。
そして何より、自分自身がいますぐ頭を抱えたい気分になっていた。


「高柳先生、そろそろお時間です」

控え室として用意されたのは、評判の客室の一つなのだろう、広々としているがシンプルな造りの和洋室で、大きな窓からは青々とした山々が幾重にも折り重なる絶景が見渡せる。

ここは、東北地方でも屈指の秘湯。
東京から新幹線で2時間、さらには直通バスで1時間揺られて辿り着いたのは、今や国内外に数多の人気ホテルや会員制リゾート施設を持つ神宮寺リゾートグループが経営する温泉旅館だ。

新しい“にっぽん”の発見───

そう銘打たれた旅館は、建てられてからそれほど時間が経っていないはずなのに、どこか懐かしい昔を思わせる趣があった。畳敷きの廊下に、ほのかに木の香りが漂う。大きめの窓によって切り取られた山々の風景と、所々に活けられた花々は、この国にまだちゃんと四季があることを教えてくれる。
一歩足を踏み入れてみれば分かる。日本人ならば誰もがホッとするような空間だ。

この旅館には一日一組限定で泊まれる離れがあるらしい。
予約は数年先まで埋まっていると言われる、人気温泉旅館のいわばスイートルームだ。

その離れで今から俺と対談する予定の男──

有坂行直(ありさかゆきなお)こそ、まさに今、俺の頭を悩ませている原因なのである。
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