過ぎ行く時間の中で
「な~んにも!ただ、うちってついてないことだらけやったけん…」
「それで運試ししに来たんだ!」
「はは、ご名答。」
「でも、スロットも勝てたし、ラッキー続くんじゃない?」

ふと見た彼女の目を思い出し、心がズキっとしたのと同時に、今まで車を飛ばし続けた私だったが、少し急ブレーキを踏んでしまった。

後ろを走る車の運転手が私を追い越し際に少しにらんだ。
私は気のない会釈をしながら、彼女があの時一瞬見せた涙を思い出していた。

その時結女は、気付かれないように少し涙をふいて結女は答えた。

「だと…、いいな~。」

私は、なんだか情けなくて恥ずかしくなった。
結女の行き方が眩しくて…
それに比べて私はどうだろう。言い訳ばかりして生きてきてなかったろうか?
明日から、まじめに生きてみよう…
そう思った。
ほんの少し。

『ほんの少しかよ!』
「仕方ないっしょ。人はそうそう変われないの!」
『でも、あの時より少し、大人になったよね…』

頭の中で結女がつぶやいた。

「歳をとっただけだよ。」

そうつぶやいて、またアクセルを踏み込むのでした。
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