過ぎ行く時間の中で
やがて時間になり、教授が入ってきた。
ゼミの開始である。それから少したち、悪友のショージがコソコソ別のドアから入ってきた。

ショージは私に気づかずに、階段教室の中段より少し上、私たちの少し下の段に座った。

余談だが、彼のほんとの名前は『譲治』だ。しかし、高校時代、2人で暴れていて華道室の障子をぶち破ってしまって以来、ショージと呼ばれている。
「ショージ」と呼ぶと、少し怒るところが面白い奴だ。

結女は私のわき腹を突っつき、
「セーフ?」
と、手でジェスチャーをしながら、小声で聞いてきた。

ショージも私と同じで、この授業1回がギリギリセーフだろうが、どうということはないのだけれど。だから、

「ま、一応ね。」

と結女に返したその意図を、結女はきっとわかってはいなかったことだろう。

ショージはまもなく、うつらうつらしだして、眠ってしまった。

「オールだったのかな?」

結女は小声で聞いてきた。私は言った。

「じゃ、確かめてやろう。」

そういって、持っていた消しゴムを半分切り、悪友の頭めがけて投げつけた。消しゴムが見事に命中した。ショージは驚いて、

「ロ、ロン!大三元!」

と叫びながら立ち上がった。それを聞いた教授は、振り返りもせず、黒板に板書しながら、

「お~い、麻雀はいいが、賭け事は賭博法違反になるぞ~。」

と言った。その瞬間、教室は爆笑に包まれた。ショージは顔を真っ赤にして座り、後ろを振り返って一睨みした。

私は、白々しくしらんぷりをし、手の下のほうで小さくピースサインをした。そして結女に言った。

「どうやら、奴のオールの原因は、徹夜麻雀のようだな。」

結女は一瞬キョトンとした顔をして、次第に笑顔がこみ上げて、笑いをこらえるのに必死になっていた。
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