過ぎ行く時間の中で
授業は淡々と進んでいく。将来、弁護士や判事、検事になりたい奴がこんな上の段でゼミを聞くはずがない。
やる気がある奴は下の段で熱心に教授の話を聞いている。

階段教室の半分より上に率先して座ったやつらは、多かれ少なかれ、私と似たような奴らである。

そんな奴らがこんなゼミをしっかり聞くわけがなく、やはり雑誌や漫画を読んだり、居眠りする奴、ひどいのになると、椅子の下のほうで、小さなオセロや将棋をやるものもいた。

「宇宙さんの言った通りね。ホントにこんななんだ~。」

結女がそう言った。

「でも、わかるわ~。この授業、面白くないもんね。もっと聞く気になるような授業しなきゃダメよ。」

そういう結女は、楽しそうに微笑んだ。

『ホント、このとき楽しかった~。階段の上のほうに座ってた人たちは、軒並み黒板見ないで、うつむいて下向いてるんだも~ん。』

頭の中の結女は楽しそうに笑いながらそう言った。

「ば~か、そんな事言ってるから…」

そうつぶやきながら、思わず思い出し笑いをしてしまい、道のセンターラインを踏んでしまった。
気を引き締めて、道の中央に車を寄せながら、慎重に走らせたのだった。

ゼミは90分なので、半ばになると雑誌も読み終えて、眠りだす奴が多数出てくる。それを教授も知っている。

厳しい教授などはその事を激しく怒ったりしたが、たいていの教授は、自分のゼミにさえ出てくれれば、そのことについては何も言わないことのほうが多かった。

ただ稀に、イビキなどをかく輩もいて、それはさすがに周りの迷惑になったりする。それでは前列で一生懸命授業を聞いてる者に示しがつかないので、そうならないために、たまに階段の上に上がってきたり、上のほうの人間に質問を投げかけたりすることがあった。

結女も、大学生の雰囲気を楽しみたかっただけだろうから、ある程度その雰囲気がわかったら、ゼミそのものには興味がない。

結女が雑誌も読み飽き、うつらうつらしだしたその時であった。
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