過ぎ行く時間の中で
「では、この場合どの法律にふれるでしょうか?それでは…」

教授は半分夢心地の結女を指差し、

「あなた。」

と言った。最初は私も気づかなかった。することがなく、結女が読んでいた雑誌のほうを読んでる真っ最中だったからだ。

「はい、そこのあなたですよ、あなた。」

この教授の声で違和感を感じ、教授のほうを見た。こちらを指差していた。私が当てられたと思い、自分を指差し、『自分ですか?』というポーズをとった。

「いえ、君の隣のお嬢さんですよ。」

と言った教授の言葉で、ようやく結女も気がついた。

「へ?」

そう言って今度は結女が同じポーズをとった。

「そう、あなたですよ。この場合は何の法律に触れるでしょうか?」

そう聞かれて結女は舞い上がってしまい、

「は、はい!」

と言って立ち上がってしまった。正直、私たちには簡単な問題だった。教授もただ注意を促すために、あえて質問を投げかけただけだった。

私は小声で答えを結女に言った。教授も別に答えを当てて欲しかったわけではない。だから私が答えを言ってたのもおそらくわかってただろうが、あえて注意などしなかった。

しかし結女は舞い上がってしまい、私の声が聞こえてなかった。

「あの時の結女はおもしろかったぜ~。」

頭の中の結女に話しかけるようにつぶやいた。結女は言い返してこない。都合の悪いときには、出てこない、ほんとに賢く、ずるい女だ。

そんな結女が教授に当てられテンパってしまい、答えた言葉は意外なものだった。
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