モグラ女の恋
「穴井さん?俺が出たら不味かったよね。ごめん」



「いいえ。そんなことありません」



私は大丈夫。



今更、何を言われたって慣れている。



「俺、そろそろ帰るね」



彼は私の横を通り抜け、靴を履いている。



「色々と本当にごめんね」



「本当に大丈夫ですから」



こういう時、大丈夫以外にどんな言葉をかければいいのかわからない私は謝られても大丈夫の連呼ばかり。



「クロ、じゃあね」



私の腕の中にいるクロをクシャクシャと撫でて彼は出て行った。



またね。じゃなくて、じゃあね。



次はないってこと。



そんなこと百も承知だけど、やっぱり少し寂しい。



昨日からのことはすべて一日限りの夢なんだってわかっているけど、もしかしたらって期待する私がいる。



「ハァ~ありえないことだよね。クロ」



クロは慰めるようにペロペロと私の顔を舐めてくれる。
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