空に虹を描くまで

驚くほど時間がゆっくりと進んでいる気がする。

まるでスローモーションに陥ったかのよう。



わたしは弾き終えると、ゆっくりと鍵盤から手を離した。

そして手の震えを隠すかのようにさっと後ろで組んだ。

上手く呼吸ができない。
頭の中は軽くパニック状態だ。

顔を上げることも、目線を合わせることもできない。

どう思われたのだろう?

実際わたしが良い、よくできた、なんて思っているだけで、世間的にはそんなことないかもしれない。

みんなの反応を聞くのが怖かった。


ークラクラして倒れそう。

こんな緊張は生まれて初めて。

足に力を入れ、立っているのがやっとだった。


心臓が大きく脈打つ。


「…どう?」
声を振り絞って聞いた。

返事を聞きたいという気持ちと、何も聞きたくないという気持ちが入り混じって、なんとも複雑な心境だ。

無言の時間が何よりも一番怖い。

お願い、誰か何か言って…。
わたしにはもうそう願うことしかできなかった。


「すげー」

小さくそう言う声が聞こえ、恐る恐る目線を上げた。


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