空に虹を描くまで
陵はエプロンの紐を括りなおしてわたしから離れて炉に向かった。
「佳奈子ちゃんもこっち来たら?」
梓さんが椅子を引いてわたしを呼んだ。
わたしは用意してもらって椅子に座り、陵を見た。
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何分経ったんだろう。
隣で梓さんが椅子を引き立ち上がった時に、ふと意識が戻った。
時間が経つのを忘れてしまうくらい、陵の姿に引き込まれた。
いや。
きっと、はじめて出会ったときから、陵に見惚れていたんだと思う。
この人はわたしには持っていない何かを持っている。
直感でそんな感じがした。
少し大人びていて、クールで、だけど一生懸命で。
その姿を見ていると、なぜか涙腺が緩んだ。
あんなに器用にガラス細工を作れることだけが凄いんじゃない。
それはもちろん尊敬するし、感動したけど、それだけじゃない。
急に陵が遠くに感じた。
わたし今まで何を望んでいたのだろう?
将来、裕福な生活をすること?
どうやって?
何をしていきたいのかさえ分からないなんて、自分が恥ずかしく思えた。