【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
太っちょカーネルはサンクスレッドの隣町の侯爵の息子で、脂ぎった顔でいつもニシシシシと笑っている人だ。
いつも「ママがそう言うから~」とか「ママに聞いてくるよ」などと言っていて、酒癖が悪いとの噂もある。
シルディーヌには、生理的に受け付けられない。
そんなカーネルと結婚になったら……と想像し、涙がじわりと出る。
幸せになる気がしない。
高望みしないから、せめてもう少し性格のいい人と結婚したい。
シルディーヌのことを大切にしてくれる人なら、始まりは無理やりでも、次第に好きになれるかもしれないのに。
くすんと鼻を鳴らすシルディーヌの頭に、ぽんと、アルフレッドの手がのった。
その手が意外にも優しくて、シルディーヌは不思議な思いで見上げる。
アルフレッドの澄んだ夏空のように青い瞳には、子供の頃と変わらないいたずらっこい光が宿っている。
けれど、ほんの少し優しく見えるのは、アルフレッドが大人になったからだろうか。
思えばシルディーヌより三歳年上で、もうすぐ二十歳になるはずだ。
王都で暮らすうちに、紳士っぽくふるまうことも覚えたのかもしれない。