【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
夜の使用人食堂にはたくさんの人が集まっている。
既婚者など通いの者もいるが、大半の使用人は王宮内で暮らしているから大変な人数になる。
だから食堂は四ヶ所に別れていて、使う場所が決められているのだ。
シルディーヌが使うのは侍女寮に近い東の食堂で、アルフレッドが使うのはたぶん南の食堂だ。食事中に会うことはないはず。
シルディーヌは新米侍女仲間と一緒にテーブルを囲んでいた。
今夜は、マッシュポテトとグリルチキンにポタージュスープ。
質素だが、ここナダール王国ではごく一般的な夕食メニューである。
ほくほくと湯気の立つ柔らかなパンは、口に入れると芳醇なバターの香りが鼻を突き抜ける。
使用人の食事といえども食材がいいのだろう、田舎で食べていたパンよりもおいしくて、いくらでも食べられそうだ。
特に心身ともに疲れた今日は、食も大いに進むというもの。
小さな幸せを感じつつほおばりながら、みんなで話すのは今日の仕事のこと。
ミスをしたこと、先輩侍女に注意されたこと、お互いの情報を交換し合って愚痴を言ったりしている。
シルディーヌも今日の出来事をしゃべってスッキリしてしまいたいが、いかんせん、ことがことだけに話せるものではない。
ひたすらみんなの話に相づちを打っていると、向かい側に座っているペペロネが水を向けて来た。