【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難


夜の使用人食堂にはたくさんの人が集まっている。

既婚者など通いの者もいるが、大半の使用人は王宮内で暮らしているから大変な人数になる。

だから食堂は四ヶ所に別れていて、使う場所が決められているのだ。

シルディーヌが使うのは侍女寮に近い東の食堂で、アルフレッドが使うのはたぶん南の食堂だ。食事中に会うことはないはず。


シルディーヌは新米侍女仲間と一緒にテーブルを囲んでいた。

今夜は、マッシュポテトとグリルチキンにポタージュスープ。

質素だが、ここナダール王国ではごく一般的な夕食メニューである。

ほくほくと湯気の立つ柔らかなパンは、口に入れると芳醇なバターの香りが鼻を突き抜ける。

使用人の食事といえども食材がいいのだろう、田舎で食べていたパンよりもおいしくて、いくらでも食べられそうだ。

特に心身ともに疲れた今日は、食も大いに進むというもの。

小さな幸せを感じつつほおばりながら、みんなで話すのは今日の仕事のこと。

ミスをしたこと、先輩侍女に注意されたこと、お互いの情報を交換し合って愚痴を言ったりしている。

シルディーヌも今日の出来事をしゃべってスッキリしてしまいたいが、いかんせん、ことがことだけに話せるものではない。

ひたすらみんなの話に相づちを打っていると、向かい側に座っているペペロネが水を向けて来た。

< 14 / 202 >

この作品をシェア

pagetop