【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難


「た、助けてっ」


予想外の事態で、喉が詰まって大きな声が出せない。

がんばって足を踏ん張ってみるが、華奢なシルディーヌの抵抗などちっとも効き目がない。

大広間の外にいた警備隊員に助けを求めるが、カーネルがうまくかわしてしまう。


「ウシシシシ、この子僕のお嫁さんで、ちょっと喧嘩中なんですよぉ。頭冷やしに外に出るんだ。邪魔しないでくれよ」

「はあ……そうなんですか?」

「ち、ちがいますっ。お嫁さんじゃないですっ。助けて」

「ああ、あんまり興奮しすぎて錯乱してるんだな。かわいそうに。シルディーヌ、いいから来いよ。頭冷やそうよ」


ぐいぐい引っ張られるシルディーヌを見、警備隊員は怪訝そうな顔をしながらも、なにもせずに見送ってしまう。

なんて役に立たないんだろうか!

警備の対象は王族や重鎮や重要人物のみで、名も知らぬ田舎の子爵令嬢などどうでもいいのか。


「どうしたらいいの?」


アルフレッドの顔が浮かぶが、今ごろは美女と優雅にダンス中だ。

シルディーヌの危機など知る由もないだろう。

涙がじわっと出て、視界が歪む。


「……アルフの、バカ」


とうとう宮殿の外に出てしまい、疲れて抵抗する力も弱くなってきた。

カーネルのものであろう、金ぴかの趣味の悪い馬車に近づいていく。

このまま馬車に乗せられ、“ママ”に会わせられるのは、絶対嫌だ。


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