【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
「離して!」
「ほら、観念しろよぉ、シルディーヌ~。その貧相な器量じゃ、僕以外に嫁の貰い手がないだろぉ?」
さっきまでは“王太子に誘われるいい女”と言っていたのに、まったくひどい言い草だ。
カーネルこそ、その器量じゃ婿に迎えられないだろうに!!
「嫌なの!」
馬車の扉が開いて乗せられそうになり、最後の力を振り絞って抵抗する。
捕まえられた腕がちぎれそうに痛いが、構っていられない。
こうなればカーネルの手の甲を抓ってやろう、そう思った時だった。
ザザッ!と靴が地面を滑るような音がし、ヒュン──ッと風切り音が鳴った。
「え、今のはなに?」
一瞬の後に馬車の扉がぽろっと外れ、車体にぶつかって派手な音を立てながら地面に落ちていく。
「は? なんで、急に外れたんだぁ?」
呆然とつぶやくカーネルと、唖然とするシルディーヌ。
落ちていく扉の向こうに、剣を振り下ろした格好の、鬼神のごとき気迫を纏ったアルフレッドがいた。
「あ……アルフ……?」
アルフレッドは肩で息をしながらもカーネルを睨み、剣を突きつけて重低音の声を出す。
「カーネル。貴様、ソイツをどこへ連れて行く気だ」
「うわっ、ま、待ってくれよぉ。マクベリーには、関係ないだろう!?」
カーネルは青ざめながらも叫び、それでもシルディーヌから手を離さない。
アルフレッドの勢いは、離しても離さなくてもカーネルを斬りそうだ。
カーネルは震えながらもシルディーヌを引き寄せて、しっかり抱え込んだ。
いざとなれば、盾にする気なんだろう。