【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
恐怖に顔をゆがめ、カーネルはシルディーヌをどんと突き放した。
そしてあたふたと馭者席に乗り、自ら手綱を握って馬車を動かして逃げていく。
一方、突き飛ばされたシルディーヌは、アルフレッドの胸にぽすんと受け止められ、ぎゅっと腕の中に閉じ込められた。
頭の上で大きな息がはかれて、リップ音が小さく鳴る。
「……間に合ってよかった」
「アルフ……ダンスに夢中じゃなかったの?」
「そんなわけあるか。あれは、フューリ殿下に『舞踏会に出るなら、しっかり社交してくれよ。お嬢さん方のダンスの誘いを無下に断ったらいけない』と、きっちり命じられていたんだ。おかげで抜け出すのに時間がかかって、助けに来るのが遅くなった。ごめんな」
「殿下の、命令だったの?」
「そうでなきゃ、踊らない。俺が触れたい女は、この世界でたったひとりしかいないぞ」
アルフレッドの指が、大事なものに触れるようにシルディーヌの頬を滑る。
瞳はとても穏やかで優しく、カーネルに見せていた鬼神のような恐ろしさなど欠片もない。
ドSで、仕事に厳しくて、敵には容赦のない人。
とんでもない幼馴染みなのに、離れたくない。
ずっとそばにいたい。
いつまでも、アルフレッドの瞳の中心にいたいと願う。
アルフレッドの精悍な頬にそっと触れると、少しだけ汗をかいていた。
シルディーヌを助けるために、必死で走ってきてくれたのだろう。
そう思えば、愛しさが増す。