【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
「私はここで失礼します。おひとりで入っていただくように、言われていますので」
シルディーヌは、フリードに見送られながら団長部屋に足を踏み入れた。
アルフレッドは執務机に座っており、難しい顔つきで書状を読んでいる。
何も言わなくても、入って来たのがシルディーヌだと気づいているようで、こちらをチラリとも見ないまま、右手をスッとあげて“待て”の仕草をした。
おかげで挨拶をするタイミングを逃してしまい、不本意ながら無言のまま待つ。
少し時間がかかりそうで、シルディーヌは仕事をするアルフレッドを観察した。
武骨な長い指が書状を捲り、長めの前髪が影を落とす青い瞳は、滑らかに文字を追う。
よほど大事な書状なのだろう。真剣な表情は初めて見るもので、団服姿も相まってとても立派に思える。
さすが上に立つ者だと見直してしまうが、騙されてはいけない、中身はイジワルアルフなのだ。
「待たせたな」
まもなく読んでいた書状を机に置き、難しい顔つきのまま顔を上げ、やおら頬杖をついた。
「なんだ? お前の、そのアマガエルが膨れたような顔は。いったいどうしたワケだ?」
「あ、アマガエル!?って、アルフったら、酷いわ! 淑女に対して失礼よ!」
確かに頬を膨らませてはいたけれど……と小さな声で付け加える。
するとアルフレッドは頬杖をやめて立ち上がり、シルディーヌのそばまで来て屈んだ。