【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
急に顔が近づいて来て、たじろいでいるシルディーヌに構わず、しげしげと見つめている。
「やはり全然失礼じゃないぞ。この、翡翠色の大きな瞳に小ぶりな顔は、十分アマガエルに似ている」
「なっ、私は、あんなに目が離れてないわっ。アルフこそ、いつもワイバーンみたいな怖い顔してるわよ。女性と話をするときは、もっと優しい顔をすることをお勧めするわ。でないと、素敵な恋人ができないわよ」
カエルと言われ、ペペロネがしてくれた伯爵令嬢の話を思い出し、口を尖らせてぷいっと横を向く。
アルフレッドの人を不愉快にするのが得意なとこは、昔よりも磨きがかかっている。
余計なお世話だろうが、本気で直した方がいいと思う。
そうでないと、一生独身だ。
「俺は、一生を共にしたいと思う“ただひとりの女”に好かれればそれで十分だ。ほかの女どもに愛想を振りまくつもりはないな。妙な勘違いをされるのは御免だ」
そう言って、アルフレッドはシルディーヌをじっと見つめる。
勘違いされ、何度も困ったことがあるような口振り。
ペペロネの言っていた『一番人気』というのが真実味を帯びる。
だが、その“ただひとりの女”に嫌われたらおしまいだろう。
そこを分かっているのか。
そもそも好きな人がいるのか。
いるなら、優しく接しているのか。
いろいろ思ったが、不毛な会話が続きそうな気がし、聞かないことに決めた。