【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
「はじめまして。私は、シルディーヌ・メロウと申します。この宮殿のお掃除を担当する侍女です。決して、団長のものとか、大事なお方とかではありません。ただの侍女です。よろしくお願いします」
子爵令嬢らしく、紺色のお仕着せの裾を少し持ち上げて丁寧に挨拶をする。
特に“ただの侍女”の部分に、力を込めて言ったつもりだ。
アクトラスは安堵してくれるだろうと思ったが、予想外の反応が返って来た。
「はっ、ただの侍女……そういう設定ですか! 了解いたしました!!」
そう言って再びビシッと敬礼をする。
「……設定って?」
シルディーヌは首を傾げた。
なんだかきちんと伝わっていないみたい?
そう思いつつフリードの方に視線を移せば、なにやら訳知り顔でうなずいていた。
「あの、フリードさん? 私は、ただの侍女ですよ?」
念を押すようにすると、フリードは思い出したように「ああ、そうでしたね」とポンと手を打った。
「シルディーヌさん、食堂の中を案内します。行きましょう」
シルディーヌはモヤモヤとした気分を抱えつつも、先導するフリードの後を追う。
その後ろから、アクトラスもついてきた。