【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
「お前ら、いいか。入るぞ」
フリードがひと声かけて入った食堂の中は、広さは十分あるが雑然としていた。
おそらく室内鍛錬場の半分ほどの大きさだろうか。
六人掛けのテーブルセットは一応整然と並んでいるものの、団服の上着らしきものが無造作に椅子に掛けてあったり、テーブルの上に丸めてあったりする。
朝食のものであろう食器がテーブルの隅に積み上げてあり、娯楽用の書物らしきものが数冊床に落ちていた。
入り口近くからパッと見ただけだが、随分長い間掃除をしていないだろうと思われる。
まさに男の住処という感じで散らかっていて、むさくるしいことこの上ない。
生まれてこの方こんな荒れた部屋は見たことがなく、子爵のご令嬢であるにわか侍女のシルディーヌは、逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
ここをひとりで清掃すると思えばうんざりする。
これは、アルフレッドに恨み言のひとつでも言わないと気が済まない。
シルディーヌは、顔を見たら一も二もなく文句を言うことに決め、密かに拳を握りしめた。
「すみません、これでも少し片付けたんですが……」
フリードは申し訳なさそうに頭を掻くから、シルディーヌはがっくりと肩を落とす。
さっき聞こえてきていた物音や怒鳴り声は、片付け中のものだったと判明したのだ。
片付けて、この状態とは……ショック過ぎる。