【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
やっぱり、アルフレッドに騙された気がする。
黒龍殿のお昼時、シルディーヌは、使用人休憩室でパンをかじりながらふと思った。
紳士じゃない人もいるとはいえ、国防の要である黒龍騎士団の誇り高き騎士が、か弱い侍女を襲うのだろうか。
弱き者と法を守るのが、使命じゃないのか!
「そうよ。ありえないわ!」
テーブルをバシッと叩くと、向かい側に座っているアクトラスのつぶらな目が一瞬大きくなった。
だがすぐに持っていた骨付き肉に豪快にかぶりつき、咀嚼しながらシルディーヌに尋ねる。
「どうしたんですか? いきなり叫んで」
「アルフのことよ」
「ケンカですか? 団長相手に口論できるとは、さすがですねえ」
「ケンカじゃないわ。言いくるめられたというか、力ずくというか……とにかく、アルフの思い通りにされたのよ!」
シルディーヌは、ブドウのジュースをグイッと飲み干し、カップをコンっとテーブルの上に置いた。
あの時は抱きしめられて苦しくなって、つい否定しなくていいと言ってしまったが、よくよく考えてみればおかしいではないか。
ペペロネの話を信じるならば、騎士団員は見目麗しい令嬢侍女たちにモテモテなのだ。
引く手あまたなのに、シルディーヌを襲うなど考えにくい。
それにそんなことをすれば、即刻牢屋行きだろうと思う。