【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
殿下の従者が二匹も退治してくれたのだ。数は減っている。
それに毎日清潔にすれば、害虫だって住みづらくなって逃げ出していくかもしれない。
翡翠色の瞳を潤ませつつも頑張る決意を固めるシルディーヌと、それを無言で見つめているアルフレッド。
そのふたりの様子を見て、殿下は密かに笑みをこぼしていた。
「さて、黒龍の騎士団長殿、そろそろいいかな? あとはアクトラス隊長に任せればいいだろう?」
殿下に声をかけられてハッと姿勢を正したアルフレッドは、シルディーヌの体をそっと離した。
「殿下、お待たせして大変申し訳ありません。参りましょう」
アルフレッドと殿下が話をしながら食堂から出て行く。
扉が閉まった瞬間、殿下のものと思える笑い声とアルフレッドの声がかすかに聞こえて来た。
「また害虫が出るかもしれません。今日は俺が隅の方にあるゴミを拾いますんで、シルディーヌさんは違うことをしてください」
アクトラスの言葉に甘えることにし、シルディーヌはハタキを持って掃除を再開した。
そして隅々までモップがけをし、窓までピカピカになった食堂の中をアクトラスと一緒に眺める。
窓から差し込む夕日が、白くなった壁に映えている。
「ここ……こんなに綺麗だったんすねえ」
「そうよね。前よりも広くなったように感じるわ。アクトラスさん、今日はお手伝いしてくれてありがとう。とても助かったわ」