幼馴染は関係ない
16話
●上尾竜生:視点


花音の家へ向かう。
今日も中学の同級生と集まるから花音と一緒に店まで行こうと思った。
まだ随分早い時間だが、花音の顔を見たかった。
中元が来るって言ってたけど、中元はいつこっちに着くのだろう?
とにかく、中元より俺の方が花音に近いってことを見せつけてやる。

花音の家のチャイムを鳴らす。
なかなか出てこない。
・・・留守か?
っ!? もしかして、中元の出迎えにでも行ったのだろうか?とイラついてくる。
その時、ドアが勢いよく開いた。
顔が上気して、少し息を上げている花音。
・・・どんだけ焦ってドアまで来たんだよ?と呆れる思いで花音を見る。
「え? 竜生、どうしたの?」
「相手を確認してから開けろっていつも言ってるだろ?」
「あ、うん。 それより、何?」
「今日も一緒に行こうぜ」
「え? それにしても早すぎでしょ!? 私これから着替えたりするんだけど・・・」
と、困った顔をした花音。
早すぎなのはしってるっつーの。 俺は、花音の準備が終わるま待ってる気満々だ。
だけど、今日の花音はいつもより気合が入っている。
髪なんてゆるくだけどクルクルしているし、スカートにブラウスだ。
昨日の飲み会はパンツスタイルだったんだぞ?
それより、断然おしゃれしている様に思う。
「いいだろ?」
俺が家の中に入ろうとすると、花音は眉間に皺を寄せ、手で俺の動きを制する。
「なんだよ?」
「せっかく、二人きりだったのに・・・」
とポツリ。
「はぁ!? 誰とだよ!」
俺が言うと、花音の部屋から、
「どうしたの?何かもめてる?」
と顔を出したのは・・・中元だった。
中元が驚いた顔をしている。
俺は中元を凝視・・・中元の髪が乱れてる。
まさかっ!?
もう一度 花音をよく確認すると・・・ブラウスのボタンが、かけ違っていて、いつもツヤツヤと光っている唇は腫れぼったく赤らんでいる。
・・・これは・・・食われた!?
今、正に花音は中元に食われてる最中だったのか!?
え・・・俺、間に合ったんだよな!?
「花音、大丈夫だったか!?」
「え? 何が?」
相変わらずとぼけてる女だ。 自分の今の状況に危機感ないのかよ!?
家族が留守の時に、俺でも入らせてもらっていない花音の部屋に中元なんかを入れやがって!
俺はズカズカと家に上がり込む時、男物の靴を蹴り飛ばした。
「ちょっと竜生!」
花音に非難されたって、無視だ!!!
「上尾君、久しぶりだね?」
涼しい顔で中元が笑う。
畜生、無駄に綺麗な顔して花音を誑かしやがって!!!
「おう、久しぶりだな? 花音と4年も付き合ってたんだって?」
「付き合ってたんじゃないよ?」
と中元。 はぁ!? やっぱり、花音は本命じゃないのかよ! 馬鹿にしやがって!
「新君?」
と花音は不安そうだ。
そんな不安な顔したって仕方ないだろ? 中元は女を選べる立場の男なんだ。
こんな男をずっと好きだと思ってきたなんて可哀想だな。と俺は、どうやって花音を慰めようかと考えていた。
その時。
「今だって付き合っているし、これからもずっと付き合っていくから、過去形にして欲しくないな?」
と笑った中元。
・・・は? ずっと?
「新君、ありがとう! ちょっと、びっくりしちゃった。 付き合ってたんじゃないなんて言うから」
と花音は中元の手を両手で握った。

何・・・こいつら・・・?
凄い愛し合ってますオーラ半端ないんだけど・・・。
嘘だろ!? 中元はきっと北海道にも女がいるはずだ。
「中元、あっちにいる女は何人?」
「え?」
「竜生! 失礼な事言わないでよっ 新君は私と付き合ってるって言ってるでしょ?」
「花音、僕は何を言われても大丈夫だから。
ゆっくり上尾君と話がしたいって思ってたんだからさ」
「あ・・・うん、そうだったね。 じゃあ、リビングでいいよね?」
と花音が中元に訊くと中元は頷いた。
あくまでも俺を花音の部屋には入らせないってか?

リビングで中元と向かい合って座る。
花音はコーヒーの用意をしている様だ。

「で、花音が本命ってことはないんだろ?」
花音は来てないが本題に入る。
「本命も何も、花音以外に彼女はいないよ?」
穏やかそうな顔しやがって、胡散臭ぇ。
「お前ならいくらでも女は寄ってくるだろ?」
「まぁ・・・声はかけられる事は少なくないかな・・・」
「なら、花音と付き合ってる意味ってなんだ?」
傍に居る女の中から彼女を作ればいいだろ?
「付き合ってるのは好きだから・・・それ以外何があるの?」
と中元は言った。
好きだから付き合う。 好きじゃない人とは付き合わない。それが普通だと花音も言っていた。
「だけど・・・会えないのに。 お前だって男だ。 欲求に負けることだってあるだろ?
花音と付き合ってるのに、他の女を抱く方が花音を傷つけるって思わないか?」
「欲望に負ける?」
首を傾げる中元にイライラしてしまう。 トボケやがって!!!
「花音を抱けなくて他の女を抱いてるんだろ!?
簡単に抱ける相手を彼女にすればいいだけだって思わないのか?」
浮気している事、花音に隠して付き合い続ける様な面倒な事しなくてもいいだろ?
「他の子なんて抱いたことないけど・・・?」
しらっとそう言ってのけた中元。
その時 花音が、
「竜生って新君に別の人がいるの決めつけて話してるよね?」
とコーヒーをお盆に乗せてやってきた。
「聞こえてたか・・・」
「聞こえるよ。 あんな大きな声で話してるんだから」
「中元に浮気されてたって事実、認める覚悟持てよ?」
俺は花音に言う。
「え?」
と驚いた顔をした花音は、その後すぐに中元を見て二人で頬笑み合っている。

「上尾君、僕は花音以外を抱いたことなんて無いよ」
と中元は笑う。
「そんな嘘信じるかよ!? そんな顔してたら女は選び放題だろ!? なのに・・・」
いや、待て・・・中元は今、何と言った?
花音以外を抱いたことなんて無い? 花音以外・・・?
はぁ!? それじゃぁ、まるで花音は抱いてますって言ってる様なもんじゃないか・・・。
俺は驚いて花音を見ると、花音は真っ赤になって俯き、中元の袖を引っ張っている。
まるで、「もう!恥ずかしい事 竜生に言わないでよ♡」とでも言っている様に・・・。
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