幼馴染は関係ない
18話
○中元新:視点


花音に出かける準備をしておいでと声をかけると、素直に席を立った。

僕の前にはなんとも微妙な顔つきの上尾君。
上尾君が花音を好きなのは明白の様に見える。
でも・・・そうでなければいいと願う。


花音との出会いは小学5年生。 初めて同じクラスになったからだ。
花音が大きな声を上げている時は必ず上尾君に向かって何か言っている時だった。
いつもは、ちょっとした所でつまずいたり、紙で指を切ったりとドジな子だな。という印象だった花音。
そんなドジな所も可愛いんだけど。
だけど、上尾君と一緒の時はとても生き生きしている様に思えた。
上尾君と一緒の時の姿が本来の姿なのかな?と・・・。

僕と会う時の花音はいつも柔らかい笑顔。
上尾君に対する様な態度は一度として取られた事は無い。
それに、花音と上尾君の今の関係を僕は知らない。
今でも花音はあの時の様な態度で上尾君に接しているのか、僕は知らなかったんだ。
さっきの、花音と上尾君とのやり取り。
・・・やっぱり、僕に対してとは違う。
思ったままに言葉を発している様に見える。
遠慮が無いというか・・・そんな二人の関係を不安に思う自分が居た。


「上尾君。 花音とは幼馴染なんだよね?」
「そうだ・・・」
「花音の為に、僕が浮気してないか心配してくれたの?」
それだけの感情なら僕は何も言うつもりはない。
「確かに花音の事はいつも心配だった・・・」
「どういう意味で?」
「なんか抜けてるし、ドジだし。 危機感無いし・・・俺が見ていてやらなきゃっていつも思ってた」
それは、ただの幼馴染としてという感情なのだろうか?
「それで、僕は花音の彼氏としては不合格って言いたいの?」
「不合格とか合格とかそんな事じゃない。 ただ・・・花音を本気で好きだとは思えない」
真っすぐ射抜く様な視線。
「どうして? 小学生の時に僕が花音を好きだったの知ってるでしょ?
初恋だったんだ・・・その初恋が今も継続しているだけの事だよ?」
僕が言うと上尾君は驚いた表情をした。
「小学生の時に好きだったってマジなのか!?」
「そんなに驚くことかな?」
「中元は誰にでも優しかった。 花音にだけ特別だったなんて俺は思っていない」
「え?」
「皆に優しい男だっただろ? 今でもそうじゃないのか?  花音を好きだなんて思えない」
「・・・」
僕は事なかれ主義で、ただ愛想笑いばかりしてる様な性格だから、誰にでも優しく見えていたのだろう。
「今だって色んな女に声かけられてるんだろ? なら、その中から・・・」
「上尾君。 声をかけられたからって相手の人を好きになれるの?」
「っ!?」
「僕は確かに声はかけられるよ。 だけど、いつも勝手に良いイメージを持たれているだけ。
何をしてもスマートそうとか言われても意味が分かんないよ。
スポーツをする姿を見て、勝手に幻滅したなんて言われた事もある。 何について幻滅なの?僕は最初からスポーツは苦手な人間だよ。 なのに、相手は勝手なイメージを僕に持つんだ」
「お前、笑えるくらい運チだもんな」
と上尾君は鼻で笑った。
「花音は僕に勝手なイメージを持っていないと思う」
「そうか? 中元を王子様イメージで見てるんじゃないか?」
「違うよ。 付き合う前に会ってた時から、花音は僕自身を知ろうとしてくれてた」
「・・・中元が花音を好きだなんて信じられないんだ。
花音が自分に勝手なイメージを持っていないってだけで付き合う相手にしたんじゃないのか!?」
上尾君の怒りが伝わる。
・・・花音自身を好きでないなら付き合うな。とでも言いたいみたいだ。
「さっきも言ったよね? 僕は花音が好きだから付き合ってるって」
「だから、なんで花音なんだよ!?」
「可愛いから・・・」
「はぁ!?」
「笑った顔も可愛いし、行動も可愛い。 なんか、全部可愛く見える」
「可愛い!?」
「上尾君は花音を可愛いって思わない?」
「・・・」
無言というのは肯定しているって事か・・・上尾君は花音を可愛いと思っているんだ。
「小学生の時、上尾君と言い合っている姿も可愛く見えてた・・・それが凄く羨ましくもあった」
「羨ましい・・・?」
「今だって、花音が上尾君に対する態度、ちょっとツンとしてるのも可愛いって思う。
上尾君を羨ましいと思うよ」
「・・・」
上尾君は俯いた。
「小学生の時、上尾君が僕に花音からの伝言だと言ってた事、花音は知らない様だった」
僕が話しかけるのは迷惑だと花音が言っていると上尾君は言ったんだ。
「ああ・・・」
「だけど、僕はその伝言は本当に花音からの伝言だと信じた。 なんでか分かる?」
「それは俺を信じたからだろ?」
「違うよ・・・もし上尾君が花音と仲が良くなかったら信じたりしなかった。
上尾君が花音と仲良しだって知ってたから信じたんだ」
「仲良しって感じではなかったけどな・・・」
「花音が上尾君にだけ特別な態度だって知ってたから・・・だから信じたし、花音と上尾君は好き合っているんだろうと思ってた」
「はぁ!?」
「でも、縁があって高校生になってから花音と連絡を取り合って、会える事になって・・・」
「マジ、担任ムカつく」
とポツリと言った上尾君の言葉を僕は聞き逃さなかった。
僕の義兄が花音の担任で、その担任が僕と花音を引き合わせた事も知って居ると思った。
そして、それに対してムカつくと言った上尾君。
上尾君が花音を好きだからそんな事を言うのではないか?と僕は思ってしまうんだ。
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