桜祭り!【SS集】
「か、薫さん! 髪が乱れちゃいましたよ! わ、わたしが直しますので、しゃがんでくれませんか?」
手を伸ばしながら近づくものの、彼はしゃがんでくれない。
「えー? いいよ、いいよ、これくらい。どうせ風強いし……こうしておけば、大丈夫でしょ」
手ぐしでササッと直すと、にっこりとわたしに笑いかけてきた。
「で、ですね」
そもそも、薫さんはどれほど髪が乱れていてもオシャレに見えてしまう。直す必要なんてなかった。
……やっぱり、彼をもてあそぼうなんて無謀だったのか……。思わずガックリと肩を落としてしまう。
しかし、わたしが落ちこんでいるなんて思ってもいない薫さんは、楽しそうな声をあげた。
「そうだ、和紗と桜……写真で撮ってあげる。ほら、そこに立って」
「え? あ、はい……」
カメラを持った薫さんに急かされ、一本の桜の木の側に立った。
「あ、もうちょっと背伸びして。そうしたら、そこの枝が入っていい感じになるから」
「こう、ですか?」
踵をあげて、桜の枝に顔を近づける。
「うーん、もうちょい。もうちょっと背伸びして」
「えっ、ま、まだ……!?」
もう少し踵を浮かすものの、こんなに背伸びするくらいなら他の木と一緒に撮った方がいいんじゃないかと思えてくる。
「こ、こんな感じですか?」
それでも薫さんの要望に応えて頑張っていると、いつの間にか彼がすぐ側まで来ていた。
「うん、よくできました」
「え? あ……っ、んんっ……!」
キスされる……と思ったと同時に、唇を塞がれていた。
「……キスはこうやって奪わないと、ね?」
唇を離した薫さんが悪戯に瞳を細める。
「なっ、ば、バレてたんですか!?」
「和紗はわかりやすからなぁ」
薫さんはわたしの頭をポンと撫でると、桜並木をゆるやかに歩き出した。
……まだまだ、薫さんをもてあそべる日は遠そうです。
※「現状報告、黒ネコ王子にもてあそばれてます!」のカップル
*あとがき*
今作は書き下ろしだったので、このふたりに馴染のない方も多いかと思いますが、楽しんでいただけましたら嬉しいです。
ちなみに、和紗が気づいていないだけで、薫は和紗の一投足一挙手に翻弄されている……はずです。