桜祭り!【SS集】
蒼一×葉月 『春の策略』(蒼一SIDE)
春限定……“お花見をしよう”という誘い文句は、二日前の休日に使ったばかりなのに、今日もまた使ってしまった。
仕事後に葉月を車に乗せると、人気の花見スポットへやって来た。車から降りると、大勢の人の声が風に乗って聞こえてくる。どうやら賑わっているらしい。
「すごい……さすが、名所というだけあってキレイにライトアップされてますね」
花見会場である公園へたどり着くと、葉月が目を輝かせて声をあげた。
「さすが葉月。桜じゃなくてそこを見るんだね」
公園には真ん中に池があり、桜とライトが映りこんでいてとても幻想的な光景になっている。だけど、まさか満開に咲き誇る桜を目の前にして、その主役を引き立てるライトを褒めるとは思わなかった。
あまりにも彼女らしい言葉に、思わずクスクスと笑みが漏れる。
「あっ、す、すみません……つい」
恥ずかしそうに肩を竦めるので、フォローの意味も込めて手をそっと握った。
「いや、ちょっと羨ましいよ。桜も楽しめるうえに、ライトも楽しめるなんて。人の二倍、夜桜を楽しめているってことだよね」
「そう言われると、そうですね。あ……しかも楽しむだけじゃなくて、勉強にもなるので三倍でしょうか」
葉月は白い歯を零して、いたずらっぽく笑った。なんともかわいくて、つい握っていた手に力を込める。
「そうだ、せっかくだから俺も葉月みたいに楽しみたいな。ライトアップについて、もっと教えてくれないかな?」
「え、教えてって……いいんですか? せっかくお花見に来てるのに、そんな話しても」
「いいよ、むしろしてほしい。葉月の説明を聞くのは楽しいから」
にっこり微笑むと、葉月は困ったように眉を垂れた。
「楽しいって……そんなこと言う人、他にいませんよ」
……他に現れたら困るから、必死に葉月の気を引いているんだけどな。
もちろん、葉月の説明を聞くのが楽しいというのは本当だし、彼女がイキイキと話してくれるので俺まで元気になり、もっと聞きたくなってしまうというのもある。
「俺は聞きたいな。いろいろと教えてもらえないかな?」
「わかりました。じゃあ、たっぷり話しちゃいますね」