桜祭り!【SS集】
――葉月に一通り説明を受けながら桜を楽しんでいると、いつの間にかひと気のないところまで歩いて来ていた。
「ここには桜がないから、人がいないのかな?」
そう思っていたら、ライトアップされていない一本の桜の木があった。満開ではあるものの、小さいので迫力にかける。
「ライトアップされていないから、人がいないんですね」
葉月が少し寂しげに呟く。
「明るければ人が集まる……照明はすごいね」
「はい、いろんな力を持っているんですよ」
夜の静けさの中に、ふたりの笑い声が響いた。風がそっと通り抜け、髪を揺らしていく。妙に、ふたりきりだということを感じた。
「……し、静か、ですね」
緊張しているのか、葉月の口調が少しぎこちなくなる。俺のことを意識してくれているのかと思うと嬉しくてたまらない。
我慢できずに葉月の肩をそっと抱き寄せると、彼女の身体がさらに緊張したのがわかった。
……もっと、俺のことを意識してくれている証。
だけど、葉月には俺といる時間を楽しんでもらいたい。
「葉月なら、この桜の木をどうやってライトアップする?」
照明の話を振ってみると、途端に葉月の身体からフッと力が抜けるのがわかった。
「私なら下からライトを……」
口を開くと、満面の笑みで構想を話してくれる。その饒舌ぶりはいつも通りの葉月だった。
「あ、また話しすぎちゃいましたね……」
しばらくすると、葉月は慌てて口を押えた。
「いや、いいよ。むしろもっと話してもらいたいくらい」
「もっと、って……そんなに甘やかされたら、蒼一さんから離れられなくなりそうです」
葉月が頬を赤らめて可愛いことをいうので、たまらずギュッと抱き締めた。
……悪いけど、離れられなくなるように仕向けているんだ。
もっともっと、キミが俺に夢中になればいい。そのために、これからも愛を込めた策略を張り巡らせよう――。
※「契約彼氏はエリート御曹司!?」のカップル。
*あとがき*
今作も書き下ろしのふたりなので、馴染みのない方も多いかと思いますが…少しでも楽しんでいただけたらと思います。
蒼一は策略を隠すので、蒼一目線のほうがわかりやすいかと思い、今作のみ彼目線にしています。