桜祭り!【SS集】


「明、なんでむくれてるんだ。お前が“花見がしたい”って、言ったんだろ?」

ヘリコプターから降りると、聖が不思議そうにたずねてきた。

「……お花見はお花見でも、もっと近くから見たかったよ」

唇を尖らせながら不満を漏らすと、聖は眉をしかめた。

「なんだと? 俺はてっきり、人混みから外れて優雅に俺とふたりで桜が見たいのかと……」
「人混みの中で、はぐれないように手をつないだり、シートを広げて一緒にお弁当食べたかったんだけど!」
「むっ……弁当だと……? なんだそれは。楽しそうだな」
「……え、えっと……?」

まさか聖……お花見がどんなものか、知らなかったの?

「そもそもお前はいつも近くで花を見ているから、遠くから見るのもいいかと思ったんだ」
「近くって?」

家のお花? いくつか飾っているけど……なんて思っていると、聖が自分の胸をトンと叩いた。

「俺という花……」
「あ、もういいです、言わなくて」

相変わらず自信満々な聖の言葉を途中で遮る。

「おい、待て。なんだ、俺じゃ不満なのか」
「不満じゃなくて、聖は聖でしょ。私は桜を近くで見たかったの」
「……なるほど、まぁ……桜はともかく、明の手作り弁当は捨てがたい」

聖は顎に手を当てて何か考えだす。

……待って、嫌な予感がする。

「あ、あの、家に桜の木を植える……なんて無理だよ? 聖の家はマンションだし、佐原家に植えられても手入れ大変だから困るし……」
「ああ、だから家を買おうかと考えていた」
「えっ!? ちょ、ちょっと、よく考えようよ! 桜のために家まで……」
「桜のためじゃない、お前のためだ」

聖は当たり前だとばかりに、真顔で言ってのける。

いやいや、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、嬉しさよりも呆れのほうが大きいよ。

「私のためを思うなら、家はもう少しよく考えてから買ってね」
「仕方ない、家は最高の条件を備え……かつ、明が住みたいと思う物件が見つかるまで待つ。これでいいか?」
「うん、それでお願いします」
「……しかし、弁当は食べたいな……どうするか……」

聖はブツブツと呟きながら、再び考え出した。

そんなにお弁当が食べたいなら、会社のランチ用に作ってあげるのに。

だけど、必死に考えている聖が面白いので、黙って見守ることにした。


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