桜祭り!【SS集】
「見たところ……俺の好きなものばかりが入っている。詩織も食べるのに……それに、きみが作ってくれたのに。……なんだか、申し訳ない」
「も、申し訳ないって……」
そんなひと言をもらうために、お弁当を作ったわけじゃないのに……。
なんだか悲しくなってくる。
征一郎さんはわたしから視線をフッと逸らすと、またため息をついた。
「一緒に花見を楽しみたいと思ったのに、これじゃ、俺ばかりがいい思いをしている」
「え……いい思い、ですか?」
「ああ、大好きな詩織の側で、大好きな詩織の手作り弁当を食べて、しかも全部大好きなものばかりで……」
「っ、だ、大好きばかり言われると……て、照れます」
「あっ、い、いや……悪い、思っていたことがそのまま漏れた」
「お、思っていたことって……!」
桜の木の下、ふたりで頬を桜色に……いや、それ以上に赤く染めてしまう。
征一郎さんは姿勢を正すと、コホンと咳払いをした。
「とにかく、平等に楽しみたいと思っている」
平等に楽しみたい……そう言われると堅苦しいし変な感じだけど、彼からの気持ちはちゃんと伝わってくるから不思議だ。
まだ難しそうな顔をしている征一郎さんに、わたしはにっこりと笑いかけた。
「平等に……っていうなら、征一郎さんに美味しく食べてもらえたら平等ですよ。わたしは作っているときに、充分楽しませてもらいましたから」
「作っているときに? どういうことかな?」
「それは……」
征一郎さんの食べたときの反応を妄想して……なんて、言うのはちょっと恥ずかしい。
「……秘密です」
「えっ? 秘密……い、言えないことか? 待ってくれ、俺はどうしたら……」
「どうもしなくていいですよ。美味しく食べてもらえればそれで」
そして、その「美味しい」と言って食べる姿も楽しませてもらう。
……ごめんなさい。平等じゃなくて、わたしばかり楽しませてもらってます。
「……まあ、いいか。今夜、たっぷり聞かせてもらうよ」
「えっ!? せ、征一郎さん……!?」
眼鏡の奥の瞳を艶っぽく細める征一郎さんに、わたしの胸は大きく跳ね上がるのだった。
※「週末シンデレラ」のカップル
*あとがき*
お花見というより、お弁当のお話。
征一郎が成長してるんだか、してないんだか…。
いや、成長した…かな?(笑)
このふたりが結婚したら、何もかもにおいて詩織の方が強いと思います。
※こちらは「週末シンデレラ番外編SS集の番外編SS7」と同じものです。